妖帝と結ぶは最愛の契り
「そんな……畏れ多い。私は貴方様にお仕え出来るだけで幸せなのです」
「欲がないな。まあ、それも可愛らしいが……」
「っ……!」

 幾度となく告げられる“可愛い”という言葉に、美鶴心臓はとくりと脈打つ。
 夫婦の営みの間も何度も紡がれた言葉。
 同時に初めての行為を思い出してしまい、頬が朱に染まった。

「だが、一つくらい何かないのか? 俺も頻繁にそなたの様子を見に来ることは出来ぬ。慣れぬ場所で不安に思うこともあるだろう……何か、支えになるようなものはないのか?」
「支え……」

 呟きながら、確かにそういうものがあれば助かるのは事実だろうと思う。
 弧月に仕えられればそれだけでいいと思っていた。
 妖帝ともなれば自分以外にも多くの妻がいるだろうし、正式な妻としての役割は他の方がするのだろうから、と。

 だが、内裏のしきたりなど学ばなくてはいけないことも多いだろう。自分は内裏のことも公家のこともよくは知らないのだから。
 その辺りに不安はある。その不安に潰されないように支えとなるものがあれば少しは安心出来ると思った。

「……では、私のことを忘れないという(あかし)が欲しいです。主上が覚えていてくださっていると思えば、それだけで頑張れます」

 妖帝としての仕事も多いだろう。妻も多いだろうから、自分にばかり時間を割くことは出来ない。
 きっと、次に会えるのはいつになるかも分からないだろうから……。
 会えなければ、きっと不安になってしまうだろうから……。
 だからせめて、忘れられていないという証が欲しい。
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