妖帝と結ぶは最愛の契り
 更衣として宣耀殿に住んでからというもの、美鶴は自分の死の予知は視なくなった。弧月の思惑通り、死の運命からは逃れられたようだ。
 その代わり、弧月の身の回りのことや内裏のこと。時には都の中で起こる火事のような大事な事件を予知するようになった。

 思えば、以前までも自分の身の回りのことや知っている人物に関しての予知ばかりだった。
 自分の予知は、身近な人や物事に左右されるらしい。

 つい先日も、弧月の薬子(くすりこ)といわれる毒見役が毒を食し苦しむ様子を視たことを伝えると、その後七日間は薬子が食す前に小鳥に食べさせていたそうだ。
 おかげで貴重な薬子を失わずに済んだと礼の文が届いたことは美鶴にとっても嬉しいことだった。

(それにしても、主上の運命をねじ伏せるお力は私以外にも適用されるものなのね)

 予知は(くつがえ)らないものだった。
 だから、本来ならその薬子も毒を食してしまう運命だったはずだ。
 だが、結果として薬子は毒を食らわず苦しむこともなく無事だ。
 それは弧月の近くにいるからなのだろう。
 予知を視ても美鶴にはどうすることも出来なかったこれまでと違い、今は弧月に伝えることで運命を変えることが出来る。
 それは何よりも嬉しいことだった。

(主上にお仕え出来たことは、私にとっても僥倖(ぎょうこう)だったのだわ)

 弧月が手ずから手折ってくれたという萩を見つめながら、美鶴は幸せを噛みしめるように微笑んだ。
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