妖帝と結ぶは最愛の契り
「さて、本日は主上にお伝えすることはございますか?」

 毎日の贈り物を美鶴が受け取ったのを見届けて、時雨は本題に入った。
 美鶴は微笑んだまま「いいえ」と首を振る。

「本日は夢見もありませんでしたし、予知はございません」

 時雨がご機嫌伺いと称してこの宣耀殿へ来るのは二つの目的があるからだ。
 一つは弧月から贈られる花を届けるため。そしてもう一つは美鶴の予知を聞くためである。
 美鶴の予知の能力は秘匿(ひとく)されているらしく、周囲の者には珍しい異能持ちの娘としか伝えていないのだとか。
 もし知られてしまえば、邪魔に思ったり逆に利用しようとする者達に攫われるなど、危険が及ぶ可能性があると説明された。

 自分にそこまでの価値があるのかと疑問ではあったが、弧月の指示だというならば素直に従う。
 そういうわけなので、美鶴の予知を知っているのは妖帝である弧月とその側近の時雨。そして美鶴の腰元である小夜だけなのだそうだ。

「そうですか、分かりました。……では他に伝えたいことはございますか?」
「え?」

 いつもならば予知の有無を聞いて、無ければそれで終わりだったはずだ。
 また明日、と言って帰るはずの時雨の問いに美鶴の方が聞き返してしまう。
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