妖帝と結ぶは最愛の契り
「では、せめて返歌を頂けないでしょうか? 本日も文が添えられているでしょう?」
「返歌を……?」

 時雨の催促に美鶴はうっと詰まる。

 毎日ではないが、時折花と共に文が添えられていた。
 通常は文に花や枝を添えるのだが、美鶴の場合は花を求めているため文の方を添えるという形になっている。

 たまに添えられている文にはいつも素晴らしい短歌がしたためられており、花と共に美鶴の心を癒してくれた。

「美鶴様、失礼致しますね」

 小夜が断りを入れて横から萩の枝に結ばれている文を解き、美鶴に手渡す。
 文を開き、流れるような美しい文字に弧月を思い出した。
 とくりと優しく跳ねた心の臓がそのままとくとくと温かく胸を打つ。

「散り……ちて……もる……」

 黒墨の文字を指先でなぞりながら詠もうとするが、まだまだ勉強途中なのでちゃんと詠むことができない。
 小夜には貴族の娘はカナ文字が読めていれば十分なのだから無理に覚える必要はないと言われている。
 だが、弧月からの文を自分で読みたいと思う美鶴はカナ文字だけではなくかな文字や漢文も教えてもらえるよう頼んでいた。

 とはいえ、まだまだ勉強不足。
 詠めるほどにはなっておらず、諦めて小夜へと文を渡した。

「では、詠ませていただきます」

 一言断りを入れた小夜はすぅ、と軽く息を吸い込み柔らかな聞き心地の良い声で歌を詠んだ。
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