妖帝と結ぶは最愛の契り
「主上はどんな歌だとしても美鶴様からの返歌を喜ばれると思いますよ?」

 だからしたためて欲しいと暗に催促され、心が揺れ動く。

(喜んで頂けるというなら返したい。でも……)

 いまだ小夜から合格点を貰えていないのだ。
 そのような歌を返して逆に失礼になってしまわないだろうか。

「……では、試しに時雨様に聞いて頂いてはいかがですか?」
「え?」

 悩む美鶴に小夜が呆れ混じりに提案する。

「私は合格とは思えませんが、案外殿方には好評かもしれませんし」
「そう、かしら?」
「何より、時雨様は返歌を受け取るまで帰りそうにありませんもの」

 小夜の言葉から時雨に対する棘を感じ取り、彼女の呆れが優柔不断な自分へ向けられたものではないと知った。

 言葉だけではなく責めるような眼差しを時雨に向けている小夜。二人は気の置けない親しい間柄のようだ。
 そういえば、二人と弧月は三人で筒井筒の仲だと以前聞いた気がした。

「というわけですので、美鶴様。返歌を詠んでくださいませ」
「わ、分かりました」

 いつの間に詠むことが決まってしまったのだろうか。小夜の提案が催促に変わっていた。
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