妖帝と結ぶは最愛の契り
***

 朝に時雨が訪ねて来たあとはもっぱら学びの時間だ。
 小夜はかなり優秀らしく、かな文字から漢文、歌の詠み方。内裏のことや国の成り立ちなど様々なことを教えてくれた。
 ときには貝覆いなどの雅な遊びも取り入れて、息抜きも入れてくれる。
 家の仕事の手伝いくらいしかさせてもらえなかった美鶴は学ぶということそのものが楽しく、三か月経った今でも新しい発見に心が躍った。

 今日は時雨に催促されたこともあり、早く返歌をしたためられるようにと歌の勉強に力を入れてもらう。
 だが、感性などそう簡単に身に着くものではなく……。

「……美鶴様、まずは文字をちゃんと読めるよう字を覚えましょうか?」

 いつものように歌の出来に頭を抱えた小夜に笑顔で学ぶ内容を変えられてしまった。


 そうして日も落ちてくると夕餉の時間だ。

「夕餉は美鶴様のお好きな粥にして頂きましたよ。ちゃんと食べてくださいましね」

 強めの口調で勧めるのは最近食が細くなってきている美鶴を心配してのことだろう。
 美鶴とて高級品である白米を残すような真似はしたくないのだが、どうしても受け付けないのだ。
 それでも少しでも食べないことには小夜を心配させてしまうと膳に向き合う。
 だが――。

 白米の粥と汁物の香りを感じた途端に「うっ」とこみ上げる。

(駄目、吐きそう……)

 なんとか耐えるために、即座に膳から顔を背け口元を押さえた。
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