妖帝と結ぶは最愛の契り
 異能持ちとはいえ平民の人間である美鶴を妖帝の妻にするなどあり得ない。それならばたとえ子が出来ずとも自分の娘も妻として受け入れろとうるさい者もいる。
 子も出来ぬのに、寵を競うだけの姫を後宮に置くつもりなど無い。
 だから、美鶴はあくまでその能力を買って妻に据えたのだと見せる為にも頻繁に会いに行くことは出来なかった。

 臣下達の不満が悪意として美鶴に向かないためでもある。
 だが、ひと月経ったら……ふた月経ったら……と思っていても、周囲の厳しい目が中々弱まらずもう三か月が経とうとしている。

(美鶴は今どうしているのか……)

 同じ内裏の中にいても会いに行くことが叶わぬ妻を思い、深くため息を吐いた。

「……どうしました? ため息なんか吐いて。恋煩いですか?」

 そう言って宵闇から現れた時雨をじろりと睨む。
 近くに来ているのは分かっていたが、はじめにかける言葉がそれとは……。

「……否定はせんよ」

 もう一度、今度は諦めのため息を吐き答える。

「おや? 今夜は素直だな? そろそろ本当に限界が近いか?」

 断りもなく隣に座った時雨は軽く驚き笑った。
 口調も気安いものに代わり、弧月は許していないのだが……と少々不機嫌に眉を寄せる。
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