妖帝と結ぶは最愛の契り
「美鶴様もそれくらい素直になればいいのに……いや、素直であれなのか。手強いな」
「ん? 何かあったのか?」

 今まさに思っていた者の名が出て、つい聞いてしまう。
 それをからかって来るかと思った時雨は、しかし困り笑顔を浮かべ肩を落として見せた。

「好いた女に会うのも我慢しているお前がいじらしくてね。彼女の方から『会いたい』と言ってもらえれば会いに行く口実になるかと思い聞いてみたんだよ」
「は?」

(こいつは何を勝手に)

 いじらしいなどと思われていたこともそうだが、勝手なことをする時雨に少し苛立つ。
 しかもあえてはっきりさせずにおいたというのに、美鶴を好いた女だと言ってのけた。
 それを否定出来ない以上、弧月は彼女を好きだと認めることしか出来ない。

「でも美鶴様はお会いしたいなど畏れ多いと言うばかりで……今のままで幸せだと言うんだ。本当に手強い」

 弧月の苛立たし気な様子を気にも留めず残念そうに続ける時雨。
 それを鼻で笑った弧月は、同時に今でも変わらぬ謙虚な愛らしさを持つ美鶴を愛おしいと思った。

「その謙虚さも、好ましいと思っているところだからな」

 そう簡単に時雨の思うようになるものか、と軽く嘲笑してやる。
 だが、時雨はそんな弧月の態度を気にも留めず、何かを思い出したかのように「くっ」と笑いを堪えて見せた。

「なんだ?」
「いや、少し今朝のことを思い出して……」

 くっくっく、と大きく笑いだしたいのを堪える様子に弧月はまた不機嫌になる。
< 58 / 144 >

この作品をシェア

pagetop