妖帝と結ぶは最愛の契り
 美鶴のことを話していて今朝のことというならば、毎朝ご機嫌伺いと称して自分の代わりに花を届けに行ってもらっているときのことだろう。
 時雨の様子に自分の知らない美鶴の姿を思いあからさまに顔を(しか)めた。

「なんだ? 何があった? 話せ」

 なにがなんでも聞き出してやろうと凄むと、「嫉妬か?」と目じりに涙を溜めた状態で問われる。

「ああそうだ。俺の知らない美鶴の姿を他の男が知っているというだけでその男をくびり殺したくなる」
「……冗談だよな?」

 流石に本当に殺したりなどしないが、それくらいの嫉妬心は実際にある。
 それを感じ取ってか、時雨は笑いも引っ込めてごくりとつばをのみ込んだ。

「口止めされてたんだが、妖帝に本気で命令されては致し方ないよな?」

 そう言って話された内容に、流石の弧月も目を瞬かせる。

「狸……」
「な? 面白いだろう?」

 話しているうちに今朝のことを思い出したのか、またくっくっと肩を揺らす時雨。
 それを軽く睨んでから、弧月は美鶴へと思いを馳せた。

 歌の良し悪しなどどうでも良い。
 自分の歌に返歌をしたためたいと思っていてくれたことが嬉しい。
 元は平民で、まともに歌を詠んだこともないだろう。
 文字すら読めず、今もまだ勉強中というところだ。
 返歌など、いずれもらえればそれで良いと思っていたというのに。
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