妖帝と結ぶは最愛の契り
妖帝の最愛
 夜も深くなってきたというのに、宣耀殿は密やかに慌ただしかった。
 とはいえ、美鶴は小夜があちらへこちらへと動き回るのを見ているだけだったが。

(本当に、主上の御子が?)

 膨れてもいない下腹に手を添える。
 医師の診断を疑うわけではないが、美鶴は未だに信じきれていなかった。
 確かに悪阻の症状はあるが、それだけで自分の腹に命が宿っていると言われても実感が湧かない。

 初めの夜、確かにあの一夜だけ夫婦の営みはした。
 美鶴とてどのようなことをするのか知らなかっただけで、夫婦の営みが子を作るための行為だという事は分かっている。
 だから身に覚えがない、というわけではないのだが……。

(でも主上は、妖力が強すぎて子が出来ないはずではなかったのかしら?)

 確かにそう聞いたはずだ。だから自分以外に妻がいないのだと。
 なのに何故? と思うのは当然のことだろう。

(それに、平民の私が妖帝の子を産むなんて……)

 おそらく、歓迎されることではない。
 自分はあくまで予知の異能を買われて妻となったのだ。本来の妻としての役目――子を産むという事を望まれているわけではない。

(……主上の御負担になるのではないかしら?)

 それが一番の気がかりだった。
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