妖帝と結ぶは最愛の契り
「ああ、それなら大丈夫だ」

 だが弧月はあっさりと美鶴の不安を否定する。

「美鶴への面会は厳しく制限していたし、唯一会っていた時雨も大した時間はいなかったであろう? それに、常に小夜がそなたの側にいた」

 美鶴を守るための措置だったが、このような形で証明になるとはな、と弧月は笑う。
 守って貰えているとは思っていたが、それほど気遣ってくれていたことに泣きたくなるほど胸が熱くなる。
 自分を必要としてくれて、毎日花を贈ってくれるだけで十分幸せだというのに……。
 畏れ多いほど大事にしてくれる弧月に、自分はこれ以上何を返せるのだろう。

「過分なお気遣い、ありがとうございます。ですが私は今以上のことは出来ません。あとはもう何をお返しすればいいのか……」

 困り果てる美鶴に、弧月は「何を言う?」と本気で驚いた様子で告げる。

「俺の子を身籠ってくれているではないか。これ以上のことはないだろう?」
「あ……」

 まだ実感がなかったせいもあるのだろう。
 美鶴は弧月の子を身籠り産むという事が何よりも彼の喜びとなるのだと思っていなかった。
 屈託のない弧月の笑みを見て、やっとそれを理解する。

「それに、これでそなたを寵愛しても苦言を口にする者はいないだろう。本当に嬉しく思う」

 愛おし気に、艶を取り戻した美鶴の髪を撫でる弧月。
 いつも安心を与えてくれる手であったが、彼の口にした言葉への驚きの方が強かった美鶴は安らぐどころではなかった。

「え? あの、寵愛……ですか?」

 戸惑う美鶴の顔を柔らかな微笑みで覗き込む弧月は、もはや溢れる思いを隠そうとはしていない。

「ああそうだ、俺はそなたを愛している。この三月(みつき)、会いたくてたまらなかった」
「っ!」

 言葉と共に思いが伝わってくる。戯言ではなく、本気なのだと。
 美鶴は戸惑いの中に確かな喜びを感じた。
< 65 / 144 >

この作品をシェア

pagetop