妖帝と結ぶは最愛の契り
(ああ、そうなのね。私も、主上に会いたかったのだわ……)

 会えなくても花を贈られるだけで十分だと思っていた。
 だが久しぶりに弧月に会い、こうして会いたかったと言われて自分の想いも自覚する。
 本当は会いたかったのだ。この美しい紅玉の瞳に、自分を映して欲しかったのだ。
 仕えることが出来るだけで幸せだと思っていたから、そのような畏れ多い望みを抱くこともなかった。
 だが、心の奥底では願っていたのかもしれない。
 それほどに、弧月の想いを受け美鶴は喜びに打ち震えた。

 だが、次に告げられたことは美鶴の想いを遥かに飛び越えていて戸惑いが戻る。

「頃合いを見て弘徽殿(こきでん)への引っ越しを進めよう。出来る限り早く俺の近くに来て欲しい」
「え? 弘徽殿、ですか? でもそちらは……」

 弘徽殿は帝の住まう清涼殿からほど近く、中宮や皇后となる者が住まう殿だ。女御ですらない更衣の自分が足を踏み入れてよい場所ではない。

「大丈夫だ。美鶴には中宮の位を授ける」
「……」

 驚きすぎて口を開けたまま固まってしまう。
 今、何と言ったのだろうか。
 平民出の自分に、妖帝の中宮――妃としての最高位を授けると言ったのだろうか。

(有り得ない)

 有り得なさ過ぎて聞き間違いだとしか思えなかった。
 もしくは夢を見ているのだろうか。……そうかもしれない。きっと、身籠ったという辺りから夢を見ていたのだろう。
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