妖帝と結ぶは最愛の契り
 有り得ないことが続き通しで、美鶴は現実逃避をしてしまう。
 だが弧月は容赦なく引き戻した。

「何を呆けている? 俺は本気だぞ?」
「……申し訳ありません。流石にそれは、分不相応すぎます」

 あまりのことの大きさに震える。

 愛されることを諦め、ただ生きるだけの人生だった。
 その生すらも終わりを迎えると思っていたのに、弧月に救われた。
 そして気味が悪いと言われてばかりだった自分を必要としてくれた彼のお役に立てれば、それだけで十分幸せな人生なのだ。

 それなのに愛しているとまで言ってくれた。彼の子を身籠ったことを喜んでくれた。
 既に十分すぎる幸福だというのに、弧月はこれ以上を与えると言う。
 流石にもう、幸せを通り越して恐ろしかった。

「……すまぬが、もう決めた。俺の子を身籠った愛しい女を守らせて欲しい。俺の一番近くにいて欲しいのだ」
「主上……」
「弧月と呼べ。そなたには、そう呼んでもらいたい」
「……はい、弧月様」
「ああ……美鶴、愛している」

 言葉と共に、甘い吐息が唇に触れる。三か月ぶりの口づけは熱く、触れただけで溶けてしまいそうだった。
 だが、それでも美鶴は恐ろしかった。
 平民である自分を中宮にするとまで言う弧月。その愛を受け入れる覚悟が持てない。
 唇が離れて開いた目に映った紅玉は強い意思が込められていて、つられて自分も強くなれるような気がする。
 だがやはり気がするだけなのだ。
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