妖帝と結ぶは最愛の契り
「弧月様……お名前の件は承りました。ですが、弘徽殿への引っ越しと中宮の位のことはお待ちいただけないでしょうか?」
「何?」
「申し訳ありません。畏れ多くて、恐ろしいとしか思えないのです。せめてもう少し、覚悟が出来るまでお待ちいただければ、と……」

 出来るならば弧月の望みに応えたい。だが、この恐ろしさをそのままにしてただ流されてはいけない気がした。

「だが、近くにいてくれた方が守れるのだ」

 それでも食い下がらない弧月に心が揺れる。
 やはり彼の願いを聞いた方がいいのだろうか、と。
 だが、そこに御簾の向こう側から第三者の声が掛かった。

「主上、お気持ちは分かりますがその辺りでお止めください。美鶴様も懐妊したとなってお心の整理がつかないのでしょう。少しばかり待つことも必要では?」

 弧月と共に来ていたらしい時雨が美鶴に助け舟を出してくれる。
 側近の進言に、弧月は「そうだな」と納得の声を上げた。

「美鶴、俺はそなた以外の妻を娶るつもりはない。だから弘徽殿への引っ越しも中宮の位も承諾して欲しい。……だが、今はただ体を大事にしてくれ」
「ありがとうございます」

 望みはしっかり口にしつつも、美鶴の思いを汲み取ってくれた弧月に感謝する。
 最後にもう一度口づけを落とした弧月は、今日の所はこれで、と時雨と共に帰って行った。
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