妖帝と結ぶは最愛の契り
「う……はい……」

 諦めて口を開けると柑子が口の中に入れられる。その際唇に弧月の指が触れ、なんとも気恥ずかしさがこみ上げた。

「美味いか?」
「は、い……」

 正直味など分からなかった。何とか感じることが出来たのは爽やかな酸味だけで、柑子そのものの味は感じる余裕がない。
 口づけも何度もしているというのに、弧月の指先が触れたというだけで口づけよりも恥ずかしい気分になる。
 そんな美鶴に、弧月はもう何度口にしたか分からない「可愛いな」という言葉を掛けるのだ。
 そして温かな手で頭を撫でてくれる。

 弧月との甘やかなひと時は嬉しいが恥ずかしい。
 まして夕餉の今は小夜も給仕のため側に控えているのだ。
 小夜の存在を気にして几帳の方を見ていたからだろうか。
 頭を撫でていた手を止め、弧月はふと思い出したように聞いて来る。

「そういえば、新たに美鶴付きにした腰元はどうだ? 安全性を考えて俺の親族から選んだが……」
(あかり)(かおり)ですか?」

 話題に上がった二人の姿を思い浮かべる。

 懐妊したということもあり小夜一人では行き届かないこともあるだろうと新たに弧月によって付けられた双子の少女たち。
 十を過ぎたばかりの裳着(もぎ)もすんでいない女童(めのわらわ)
 茶色の髪と目を持つ汗衫(かざみ)姿の二人にはなんと狐の耳としっぽがついており、美鶴は改めて貴族は妖なのだと実感した。

 なんでも成人前の妖は本来の姿を隠せないらしく、妖狐である二人は狐の耳としっぽが出たままなのだそうだ。
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