妖帝と結ぶは最愛の契り
 小夜が弧月を優しい眼差しで見ている。
 そのような場面を見たことはなかったが、それは単純に弧月が自分を訪ねてくると小夜を下がらせ自分と二人きりになるからだ。
 小夜と弧月が美鶴の目の前で長く顔を合わせていることはない。

『今上帝は子が望めないからと以前までは妻を持ちませんでした。異能持ちの美鶴様は事情が違うということは分かっておりますが……』
『ご自身が想い人の妻になれないのに、人間でありながら妻となった者に側で仕えなくてはならないなんて……小夜姉さまが不憫でなりません』

 そうして泣き出した二人に美鶴は何も言葉を返せなかった。


(小夜が、弧月様を……?)

 そんなそぶりを見たことがないので分からないが、小夜は優秀な女官だ。
 双子の言う通り上手く思いを隠しているのかもしれない。

 それを思うと、小夜が近くにいるのに弧月と親しくするのは気が引けてしまう。
 双子の言葉が真実かどうか小夜に直接聞けばいいのだろうが、もしその通りだとしても立場上違うと答えるだろう。
 逆に本当だと言われても困ってしまう。
 知り合いも信頼できる者も少ない内裏では、自分は小夜がいなければ何一つまともに出来ないのだから。


「美鶴?」
「あ、すみません」

 考え事をして黙り込んでしまった。

(弧月様とのお話の途中だというのに)
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