妖帝と結ぶは最愛の契り
(本来のお姿になって、耳としっぽを触らせて欲しいなんて……やはり頼めないわ!)

 毎日双子の柔らかそうな耳としっぽを見て、弧月にもあるのだと思ったらいつか触れてみたいと思ってしまった。
 弧月は気にしていないらしいが、だからと言ってむやみに妖狐の姿になるのは良くないだろう。
 それに、普通に考えても不敬だ。

「で? それがどうしたのだ?」
「い、いえ! やはりなんでもないのです」

 話しの続きを促されたが、言えるわけがない。
 だが弧月にとっては言わぬ方が不満だったらしい。

「何でもないわけがなかろう? 俺はそなたのことを知りたいと言ったはずだ」
「あ、あの……近いのですが?」

 不満げな弧月は軽く凄むように顔を近付けてくる。
 だが、何故だろう?
 凄まれて怖いはずなのに、色気の方を強く感じた。

「言わぬなら、口が滑りやすいよう潤してやろうか?」
「こ、弧月様?」

 笑む顔だけは優しいのに、赤い目の奥には美鶴を困らせ楽しんでいるような色が見える。……意地悪だ。

 それでも言えずにいると、近付く白磁の肌は止まらず、言の葉を紡ぐはずの二枚の膨らみが美鶴のそれに触れた。
 軽く触れ、ぺろりとなめられ「ひゃっ」と驚くと、離れた弧月は楽し気に告げる。

「どうだ? 口が滑りやすくなったのではないか?」

 滑りやすいどころか恥ずかしさで熱がこもり、言葉など忘れたかのようにはくはくと動かすことしか出来ない。
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