妖帝と結ぶは最愛の契り
「こんな我が儘を口にすると弧月様を困らせてしまうと思っていたのですが……小夜にもう少し我が儘になった方が弧月様も喜ぶと言われて……弧月様?」

 話している間、弧月は黙って聞いてくれていた。
 だが、手のひらで口元を覆い何故か美鶴から目を逸らしている。
 変なことを言ってしまったのだろうかと少々慌てた。

「あ、あの。私変なことを口にしてしまいましたか? すみません、やはりこのような我が儘はご迷惑に――」

 申し訳ないと謝ろうとしたが、途中で止められてしまう。
 自分の口を覆っていた弧月の手が人差し指だけとなって美鶴の唇に触れたのだ。

「変ではない……迷惑とも思わぬ」

 困ったような微笑みは、いつもより赤いように見えた。耳に至っては真っ赤である。

「いや、何と言うべきか……とにかく、嬉しく思う」

 迷惑ではなく、嬉しいと言ってもらえてほっとする。
 そうして安心すると、今度は唇に触れている指が気になった。
 口づけとは違う、殿方の少し硬めな指の感触。
 恥ずかしいのに、軽く抑えられている唇では離れて欲しいとも言えずただ熱が上がるばかり。

「美鶴……愛している」

 弧月の朱に染まっていた耳の色が落ち着くと、指が唇から離れ頬に流れる。
 そのまま耳裏に手が差し込まれ、頭を固定された。

「弧月様……私も――っ」

 同じだと応えようとした唇は、言の葉を紡ぐ前に塞がれてしまう。
 だから、美鶴は心で続きを思う。

(私も、愛しております)

 そのまま幾度も唇を触れ合わせ、愛を確かめ合った。
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