その鬼は晴れやかに笑って、
「御崎くん」
壁に背を預けて胡座をかいた御崎は、脇に鞄を放置したまま頭上のそれを引き離そうと静かに格闘していた。
結希の声に、そのままの状態で顔を上げる。
「吹野さん……」
珍妙な光景に結希は小さく吹き出すけれど、御崎にしてみれば笑い事ではない。
じとりとした目に見上げられながら、結希は彼の頭上に目線を合わせるよう膝をついた。
「ねぇ、君は鬼だよね」
問いかけて微笑む。
御崎の頭にしがみつくそれは、鬼だった。
きょとんと結希を見返す小鬼は、一見して人間の男児とそう変わらない容貌をしていた。
見た目は就学前の年頃だろうか。しかしサイズは赤ん坊ほどであり、もちろん人間であるはずもない。
さらに額には小さな角が、背中には翼が、全身には刺青のような模様があるものの、これまでに見てきた鬼とは明らかに違う。亡霊のような雰囲気もなければ凶暴さなども感じない。
鬼であるならば退治すべき対象……だが。
「小鬼くん、お名前は?」
「……オレはオレだ。鬼とか言われても知らないし、名前なんかあるもんか!」
「どうして僕の頭から離れない」
苛立ちを隠せない御崎が小鬼の首根っこを引っ掴んで剥がしにかかるのを、小鬼は離されまいと一層力強く髪を握って抵抗する。
「勝手に降ってくるわ居座るわ、僕の頭はお前の巣じゃないんだ」
「いぃぃやぁぁだぁぁぁぁ!!」