その鬼は晴れやかに笑って、
「それはあいつの持ち物か?」
呆れたようにため息を吐く彼の目の前で、抱え上げられた晴斗は偉そうに背を反らして指先を突きつける。
「レンがオレのものだっ、間違えるなよ!」
不遜な態度とそれをにこにこ見守る結希の様子に、可哀想に……と桐生は御崎へと思い馳せる。同時に、自分にそんな風に思われたところで不服だろうとも思えて、小さく苦笑を漏らした。
桐生と御崎の間に友情はない。
同じクラスになったこともなければ授業外での交流もなく、せいぜいが同学年の顔見知り程度、桐生の感覚としてはどことなく好かれていない雰囲気を感じる気さえすることがある。
タイプが違う人間であることは明らかで、それならば向こうも相性がいいようには感じていないのだろうと、大して気にしてはいないのだが。
「晴斗、これからはれんくんのお家で暮らすんだから、仲良くね。迷惑かけちゃダメだよ?」
「世話になってやるんだっ。でもまあ、ユキが言うならちょっとくらいのことはガマンしてやる」
随分と態度の大きな小鬼だ。図体は小さい癖してまるで飼い主のような発言を……と考えて、桐生は首を捻った。聞き慣れない、いや聞き覚えのない単語が出てきた。
「……れんくん……?」
話の流れから相手は明らかで、そんな名前だったような気もする。結希が誰をどう呼ぼうと桐生には関係のないこと。それでもつい昨日の朝、会った時には二人にそんな様子はなかったのだから、唐突に思えても無理はない。
「えとね、晴斗がわかりにくいみたいで」
「レンはレンだ」
「そんなわけで、こうなりましたー」
「ふーん」