修学旅行からはじまる恋の話
「で?朝はラジオ体操、昼はゴミ拾い。次は何させられんの?委員長」
数歩うしろを気怠そうに歩く菱田くんが、心底嫌味ったらしく聞いてきた。
「カレー作るんだよ」
「え」
「夜ご飯」
「…自炊?修学旅行なのに」
菱田くんの歩く足音が止まったのが分かった。
皆が楽しみにする修学旅行を、旅のしおりすら見ていないらしい。
「けど明日からはホテルの豪華バイキングだから……わっ」
逃げられると思って勢いよく振り向くと、思っていたより近く、というか目の前に菱田くんが立っていて驚いた。
「な、何?」
菱田くんが少し屈むと、彼の癖のある少し長い前髪の隙間から見える瞳に、私が映っている。
なんでこの人、無駄に顔だけ良いんだ。
「委員長」
思わず一歩後ろに後退りすると、右腕を掴まれていることに気付いた。
「ちょっと付き合って」
「えっ?」
「たまには一緒に悪いことしよう」
そう言った菱田くんは、何だか楽しいことを思いついたような顔をしていた。