幸せな音
「ふふ、それは心強いですね」

 何を言っているんだ自分は。でも仕方ないじゃないか、まさか優武からこんな提案、有頂天にならない方がおかしいだろう。

 せっかくだから本当に案内する。子供の時はここが遊ぶのに最適だったとか、中学生の時はよくここでマラソンをさせられたとか。それからなんでもない話をしていたら唐突に優武から手を握られる。

「ひゃい!? どうしました相良さん!?」

「突然すみません! でもお願いします! もう少しこのままで!」

「はっはいぃ!」

 突然の事で面食らってしまったが、今の優武の感じ、これはまさかもしかするともしかするのでは。ひえええドキドキするー! どこに連れていかれてしまうのー??? 信愛の手を引いていた優武は街灯が眩しいベンチの前で立ち止まり、信愛の顔をまっすぐに見つめて思い切ったように言う。

「早稲田さん……いや、信愛さん……!」

「は、はいっ!」ごくり。まさかの名前呼び。嬉し恥ずかしで顔から火が出そうだ。

 ふとした視線の先に優武の真剣な顔があってドキリとした。

「好きです! 僕とお付き合いして頂けないでしょうか!」

 この言葉をひねり出すのに、いったいどれほどの勇気が必要だったのだろうか。泣きそうな顔で一生懸命に叫ぶ優武の顔を見て背中を押される思いだった。この思いに誠実に応えたい。感極まって涙が溢れた。

「私も……! 私も優武さんが大好きです……!」

 愛情いっぱいに抱きしめ合ったこの温もりをきっと一生忘れない。
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