幸せな音

　信愛は記憶が混濁していて、事故当時の記憶が曖昧だ。医師の言う事も母の言う事も実感が持てず、乗客の誰かと勘違いしているのではないか。そんな希望的観測があった。しかし霊安室に横たわる変わり果てた優武の姿を目の当たりにして、記憶が蘇った。

　暗い、痛い、何も見えない。でも優武が抱きしめてくれているから安心だ。

「優武くん、大丈夫？」

　返事はない。きっと気を失っているだけだ。

「優武くん、優武くん、優武くん……？」

　何度も呼びかける。まだ返事はない。大丈夫、だって彼の体からこんなにも温もりが伝わってくる。彼はただ眠っているだけ。だから少しくらい心細くても我慢しないと。

何度呼びかけてからだっただろうか。信愛も体力の限界がきたのかそれからの記憶はぷっつりと途切れた。

……なにこれ、今目の前に突き付けられている現実がとても受け入れられない。

「優武くん……？」

なんで、わかるの……？　こんな見る影もないほど傷だらけなのに……！

「ねえ、優武くん……！」