幸せな音
 ふと気を抜くと目の前には霊安室に横たわる優武の死体が。信愛は彼のお腹に顔を埋めながら泣き崩れる。心がずっとあの日に置き去りにされている。いつも泣き疲れて眠り、起きた時は全部夢だったとぬか喜びをして優武の死を再び突き付けられて愕然とする。

 治療を受けても、退院しても、優武の葬式に出席しても、優武の骨を拾っても、涙が反射的に溢れるだけで何も現実感がわかない。

今は夢なの、それとも現実? わからない。もう何もわからない。

 優武からエンゲージリングをもらった公園のベンチに独り座り、時間が過ぎ去るのを無為に待つ。信愛の風貌はまるで亡霊だった。味がしないから食べる気にならず体は骨と皮だけのように窶れた。深く眠ると起きる度悪夢から醒めたような淡い期待に翻弄される。優武の死を突き付けられる度に死にたくなった。目の下の濃いクマが不眠の日数を物語っている。

「……優武くん、私、どうすればいいの……?」

 優武がいなければ、生きていく事すらままならない。

「こんにちは。お隣いいですか?」
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