幸せな音
 そう言って微笑む彼女を見て妬ましくて堪らなくなる。とっくに枯れ果てたと思っていた胸の内から熱いものがこみ上げてくる。

「……だったら、あなたには私の気持ちなんて一生わからないわ」

 自制が利かないまま、理不尽な怒りを叩きつける。

「結婚して三か月も経たずに旦那を喪った私の気持ちがわかる? 幸せの絶頂から地獄まで突き落とされた私の気持ちがわかるって言うの? 支えてくれる夫がいるあなたに?」

 もう触れてもらえない。優しい言葉をかけてもらえない。彼の温かな眼差しが信愛に向けられる事はもうない。

 触れたくても触れられない。この声が彼に届く事はもうない。彼の笑った顔をもう二度と見る事ができない。

 この絶望がわかってたまるものか。

「知った風な事、言わないでよ……!」

信愛は冷笑しながら吐き捨てるように言う。信愛は彼女が泣いて逃げ帰るだろうと高を括っていたから驚いた。桜守は焦点の合わない虚ろな瞳のままぶつぶつと何かを呟いている。
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