幸せな音
 何て事のない世間話を振りながら状況を探る。信愛を抱きしめながら涙を流す優武の魂とは労せず波長を合わせられそう。問題は信愛の方。波長が荒波のように絶えず歪みうねっている。これでは波長を合わせるのはかなり困難。少しでも会話が弾めば精神的安定を図れるのだが、話しかけたのは逆効果だったようで不安定さが増していく。

 嫉妬も怒りも根幹の悲しみが派せいした側面に過ぎない。彼女の悲しみの深さを思い知らされる。小手先は通用しない。橋渡しには彼女の悲しみに負けない霊力を熾し、より精密な波長操作が試される。

 縁人の事を思った。

『景さんが頑張ってくれたからあの二人は今笑えているんです。もしも景さんが失敗したときはその埋め合わせを僕にも手伝わせてください。泣くしかないときは一緒に涙を流したいです。だからこうしてうまくいったときは一緒に喜びたいんです』

 今まで支え合い寄り添い合ってきた最愛の旦那を喪うというのは一体どれほどの絶望であっただろうか。
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