幸せな音
 最愛の人を喪う絶望とは暗闇の中を孤独に彷徨い、どこまでいっても一筋の光明すら見えず、何も信じられず、誰も頼れず、ただ死を渇望する、そういう地獄だ。だから死者と生者の橋渡しができる景達が伝えなきゃいけないんだ。愛する人はいつだってすぐ傍にいてくれるのだと……!

「あともう少しなのっ、お願い、ここにいて……!」

 あと少しだけ時間を頂戴、届けてみせるから絶対、彼の愛を、あなたに……!

「………………わかった、わかったから」

 信愛の波長のうねりと歪みがほんの少し和らいだ。このチャンスを逃さない。全身全霊で霊力を練り上げる。景の全身から稲妻のような霊力が迸り、信愛の時に脆く時に荒々しく歪にうねる波長を全て捉え切り、ついには魂へと手が届いた。よし、いける。

 景は目を瞑る。稲妻のような激しい波長を維持しながら凪いだ水面のような波長で優武の魂と繫がる。

『幸せでいてほしいのに、悲しそうだ。笑っていてほしいのに、泣いている。できなかった。独りにした。何故死んだ。何も届かない。守れない。なんて無力だ。申し訳ない』
< 46 / 93 >

この作品をシェア

pagetop