幸せな音
「本当にいいの? こんな私で……。だって私、もうじき耳が聞こえなくなっちゃうかもしれないんだよ? 私と結婚したらきっと優武くん、思いもしない大変な事がいっぱいでノイローゼになっちゃうかもよ?」

 こんな私……? 何を言っているんだ、君ほど優しくて可愛くて素敵な女性を僕は知らない。彼女の体を包み込むように抱き締める。僕の言葉が難なく信じられるくらいこの愛情が伝わればいいのに。彼女の利き耳の方へ顔を寄せて喋る。

「これ以上もなく愛している人と家族になれるんですよ? ありえない話ですけど、たとえノイローゼになったとしても本望に決まっているじゃないですか」

 むしろ僕は君が心配だよ。

「信愛さんの方こそ本当に僕で大丈夫ですか? よく考えてみてください。十歳以上も歳が離れているんですよ? 先におじいちゃんになっちゃいます。きっと髪もすぐ薄くなるし、加齢臭だってキツくなって……認知症になって迷惑をかけるかも、なんですよ……?」

「あはははっ、何の心配っ?」

「割と真剣に歳の差気にしているんですけど。僕は純真な若者を誑かしているんじゃないかって」
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