幸せな音
「ありがとうございます……そ、それでは行きましょうか」

「は、はい……!」

 お互いカチコチに緊張しながら目的の店まで歩いていく。生まれてこの方まともなデート経験のない信愛だったが、もしかして優武もそうなのだろうか。そうだったらいいな。

駅前だった事もあり待ち合わせ場所からすぐに到着できてよかった。店に着く頃には普通に会話ができる程度に二人の緊張は解れていた。

 優武が誘ってくれたディナーはおいしかったが、それ以上に普段できない話ができたのが楽しかった。店員と客の関係ではこうはいかない。優武との距離がぐっと縮まったみたいで高揚した。

 優武は酒が回ってきたのか、口数が増えていった。

「早稲田さんは本当にすごいです!」

「ええ、何がですかー」

 酒がいい感じに回っていたのは信愛も同じだったか。

「特に若い方に多いんですけど、補聴器を隠そうとするんですよ。まるで自分の欠点をひた隠しにするように必死に。でも早稲田さんは違います。補聴器もアクセサリーのようにおしゃれにつけ熟すんです。こんな事なかなかできませんよ。とても素敵なことです。初めて会った時から本当にすごいなと」
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