幸せな音
「大丈夫だったよ、本当に一瞬の事で、苦しむ暇もなくて、何が起こったのか全然わからなくて、気づいたら僕の死体だけが信愛さんを抱きしめていて……!」

 優武の悲しみが零れる涙の雫から流れ込んでくるようだった。

「何度も身体に戻ろうと足掻いたけど全然ダメで! 何度も信愛さんの呼びかけに応えようと必死に叫んだけど全然届かなくて! 信愛さん、全然寝てくれないし、ごはんも食べてくれないから、信愛さんも死んじゃうじゃないかって、ずっと怖かったんだ……!!」

「うああああああああああああああ! ごめッ、ごめんなさいぃッ! ああああああああああああああああああああああ!!」

「違うんだ、謝らないで、僕が悪かったんだ、あんなに簡単に死んでしまうから……!」

 抱き合いながら二人で泣き崩れた。それから落ち着いて会話できるようになるまでどれほどの時間が経った事か。

 何もない空間に二人掛けのベンチが現れる。きっと二人がそれを望んだからだ。優武と信愛は何も言わずにベンチに腰掛けて身を寄せ合う。信愛が優武の肩にもたれかかって上目遣いで顔を覗くと、優武は嬉しそうに笑って信愛の肩を抱く。
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