幸せな音
「全然。すっごく可愛いって思った」

「ああ! それ知ってるよ! 男の男らしくない所を優しく言い換える時に使う形容詞だ!」

「違うってば! わかんないかな! これは女子がキュンキュンした時に使う形容詞なの!」

「「あはははははは!」」

 お互いお腹を抱えて笑い合う。笑いすぎて涙が出てきてしまう。ああ、楽しいな、ずっとこうしていたい。

 優武がもう一度包み込むように信愛を抱きしめる。

「信愛さん、愛してる」

「ありがとう、私もすっごく愛してる」

 信愛もぎゅっと抱きしめ返す。

「信愛さん、体を大事にね?」

「え……?」

「ごはんをいっぱい食べて、いっぱい寝て、思い切り笑って生きてね?」

優武の身体が光の粒子となって徐々にほつれていく。信愛は抱きしめられているから彼の存在感が希薄になっていくのを肌で感じた。

 ショックで瞬きをやめた信愛の瞳から滂沱の涙が溢れる。この儀式は裏技みたいなものだから、一度成功したらもう二度とできないという景の言葉が心に重くのしかかる。

「……もう、時間なの……?」

「残念だけど、そうみたい」
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