幸せな音
「ほっ、ほめ過ぎです! そんなすごい事ないですから、普通ですから……!」

「それを普通にできてしまう事がすごいんですよ!」

「わかりました! わかりましたから!」

 これがほめ上戸というヤツか。優武がすると怖ろしい破壊力だ。承認欲求が満たされるどころか溢れかえる。

会計は割り勘を強く要望したが優武が断固として譲らなかった。

「それでは、その、今回だけという事で。今度は割り勘にしましょう」

優武の殺し文句にときめいて信愛が先に折れた。今度は信愛が奢ってやるのだと決意する。

次のデートも決まったし、すごくいい雰囲気だ。これはもう交際していると言って良いのでは? 

 優武と楽しく話しながら後をついて行ってはっとする。そういえばこの後ってどうなる? まさかこのままホテルになんて事になったらどうしよう!? 心の準備がまるでできていない! それより今日の下着って見せられるものだったっけ!?

 信愛が独り悶々としている間に気づけば地下鉄の改札をくぐっていた。ほっとしたような、がっかりしたような……。

「早稲田さん? どうかしましたか?」

「い、いえ、なんでもー」
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