幸せな音

夜明け

　二人掛けのベンチに信愛と優武が腰掛けている。信愛は優武の肩にもたれかかって心地よさそうに眠り、優武はそんな信愛を愛でるように支えている。

　春の微風(そよかぜ)が信愛の髪を撫でるように揺らし、子供たちの楽しそうな笑い声が耳を擽(くすぐ)ってくる。昇ったばかりの柔らかな日の光に照らされて信愛は微睡(まどろ)みから覚める。右手が温かい。優武が優しく握ってくれているからだ。指と指の間に絡めるように繋ぎ直す。

　小鳥たちが囀(さえず)るような子供たちの声を辿っていくと、グラウンドでは追いかけっこやサッカー。遊具場ではブランコや滑り台で両親と戯(たわむ)れる小さな子達の姿が視界一杯に広がっている。優武はどこか羨望の眼差しでその光景を眺めていた。

「優武くん、どうかした？」

「ここに三人で来られたらいいなって」

「あはは、またその話？」

　優武は生前事ある毎に子供を欲しがった。まだ身籠ってすらいないのに妊娠出産育児の本を読み漁って勉強していたほどに。その理由がつい先日わかって、本当に嬉しかった。
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