幸せな音
 別れ際、義母は信愛をそっと抱きしめると大粒の涙を溢しながらまた泣いた。抱きしめられると彼女の華奢な身体に驚いた。最後に会ったときよりも随分と(やつ)れている。当然だ。愛する息子に先立たれたのだ。彼女だって死にたくなるくらい悲しんだだろう。

「お義母さん、どうかこれからも元気でいてくださいね。きっとうちの子やんちゃだから」

「うん……うん、そうよね、私もまだまだ頑張らなきゃ、可愛い孫の成長する姿みたいもの」

「そうですよ……!」

「信愛ちゃん、ありがとう……本当にありがとうね」

 もう一度抱きしめてくれた。義母のいろんな感謝が流れ込んでくる。この懐妊が少しでも救いになるといいな。

 ああ、いっぱい泣いた。でも湿っぽいのはこれくらいにして、そろそろ全力で祝いたい。

 景も呼んで盛大にパーティーと行きたいところだったが、そうはいかなかった……。

「おええええええええええええええええええええ!!」

 大好物のトマトソースパスタが受け付けないだと!? というかトマト系全般無理!?

「ちょっ、大丈夫信愛ちゃん!?」

 トイレで吐く信愛の背中をさすりに来てくれる景。天使か……。
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