幸せな音
 義母の言う通りこれからが妊婦の本番だった。子宮が大きくなる事で胃が押し上げられるのか胃痛が治まらず、時折胃液が逆流する事もあった。のどが痛い、胸がムカムカする。おまけに浮腫(むく)みが酷くなり過ぎてペアリングが抜けなくなる。

 全身の倦怠感(けんたいかん)、腰痛、便秘、体重管理でストレスが溜まる。この最悪の体調不良の中初めての前駆陣痛が起こる。早産だと思って慌てて病院に駆け込んだ。

 なんでも前駆陣痛は出産の予行演習だとか。でもこの突然子宮口が収縮する感じは何度経験しても肝が冷えるし、日が経つにつれて頻度が多くなってきて、これはさすがに本物の陣痛なのではないか、早産なのではないかと前駆陣痛が起こる度不安になる。こんな様で歩生をちゃんと産む事ができるのだろうか。

 さらに怒涛(どとう)の体調不良ラッシュにも悩まされて、ついネガティブな思考に(おちい)る事が多くなってしまう。

 ある晩夢を見た。

『子どもができる夢を壊され、悔しい』

 テレビで報じられているのは、旧優生保護法のもとで不妊手術を強制された聴覚障害の女性が裁判で尋問されている様子だ。
< 85 / 93 >

この作品をシェア

pagetop