幸せな音
 頑張れ! 頑張れ歩生! ママも頑張るから!

 必死にいきむがまだ出てきてくれない。お願い、お願い、お願い! 早く産まれてきて!

「あああっくぅうう……」

 あ、意識が遠のく……。

『信愛さん頑張れッ!!』

 優武の手を握って何とか気絶を堪える。

「はぁッ! はぁッ! はぁッ!」

ダメだ、産めない。全身痙攣が治まらない。体力の限界が目前だ。あと二息か三息くらいしかいきめないだろう。それなら。信愛はもう一度優武の手を握る。優武が力強く頷いてくれる。よし、残っている全ての力を次の一息に懸けるッ!

「ヒッ! ヒッ!」

歩生、パパとママが約束する。

「――フッッッッ!」

 絶対に生まれてきた事を後悔させないッ!!

「ッッッッッンンッ!!!」

 信愛の中からヌルっと大きなものが抜け出る。産めたと確信する。

 目がチカチカしてよく見えない。何も聞こえない。歩生は? 歩生はどうなったの!?

 うそ! 産声が聞こえない! 泣いて! お願い! 息をして! 生きてッ!! 

「―が―さ―! よ―――り――ね! ――な――子――よ!」
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