氷の女と呼ばれた私が、クソガキ御曹司に身も心も溶かされるまで。
全く子沢山にも程がある。
この男の遺伝子が拡散されることは、世界にとって良くない兆しだ。
もはや脅威と呼ぶべき男の繁殖力に、ゾッとせずにはいられない。
阿良々木敬一(あららぎけいいち)。
世界有数の財閥のトップであり、私を所有する男。
人は彼のことを往々にしてこう呼ぶ。
歩く軍産複合体。
そして、この人の姿をした軍産複合体は歩くだけでなく余計な世話を焼くのも好きで、時々こうして私に見合い話を持ってくる。
…しかし、まさか『2度』も自分の息子を紹介してくるほど、私がこの男から信頼を得ているとは思わなかった。
身長180センチ、体重は軽く100キロを超えているであろう大男が、沈痛な面持ちで言葉を続ける。
「実は私の14番目の息子が、あなたに一目惚れをしたそうなんです。その息子にあなたとの仲を取り持ってほしいと懇願されまして。もちろん、私は息子のことが大切なので、あんな女はやめておきなさいと何度も言いました。あの人、周囲から『氷の女』と陰口を叩かれるほど、性格きついですよって。」
「それで、14番目の御子息は何と?」
「フッ、ますます気に入ったぜ!絶対俺のモノにして、可愛い子猫ちゃんに調教してやるんだぜ!とのことでした。」
「では、14番目の御子息にこうお伝え下さい。私はまだ9番目の御子息に婚約破棄されたことを根に持っておりますので、見合いは遠慮させて頂きますと。」
「婚約破棄された心の傷が癒えていないと言わないところが、あなたらしいです。」
「氷の女と呼ばれる私が、婚約破棄程度で傷つくと?」
フンと鼻を鳴らして、再びタブレットの作業に戻る。
これで、この話は終わりのはずだった。