氷の女と呼ばれた私が、クソガキ御曹司に身も心も溶かされるまで。
案内されたのは、夜景を一望できる窓際のテーブル席だった。
「今宵は特別な方と特別な時間をお過ごし下さい。」
そう言って、支配人が私の側から離れる。
テーブル席の前には、阿良々木の14番目の息子と思しき人物が立っていた。
端整な顔立ちで、艶のある黒髪をオールバックに撫でつけ、黒のタキシードに身を包み、良い時計を着け、良い靴を履いている。
夜景を背に佇む姿には気品があり、父親と顔の造りが全く違うところに特に好感が持てた。
が、随分と若い。それに伴い、身長も低い。
私は今年で28になり、女にしては背が高い方なので、この年齢差と身長差は少しばかり気になるところだ。
テーブル席に歩み寄り、176センチ(今はヒールを履いているので180センチ)の高みから、相手の頭を見下ろす。
そして、なるべく親切な人間を装い声を掛けた。