天才魔法使いは意地っ張りな努力家魔女に恋をする
1話 才能があるがゆえの
前にいた学校では、僕は厄介者だった。
田舎の小さな学校にいた僕は、魔法に関する才能が人よりも秀でていた。それが世間でも通用するのか、この学校に人があまりいないから目立っているだけなのかはよく分からなかったが、とにかく魔法で僕が困ることは無かった。
僕が杖を振ると、どんな魔法でも一発で成功する。教わる前からホウキにも乗れた。僕にはそれが当たり前だったが、周りに同じぐらいの力を持つ者はいない。この頃はまだ、同級生たちは僕を不思議がったり、羨ましがったりしながらも、暖かく受け入れてくれていた。
ある時から、女の子たちから好かれ始めた。天才と騒がれ、ちやほやされた。ちょうど異性を意識し出す年齢になった頃だと思う。
僕の容姿は悪くは無いと思うが、とりわけ良くも無い。見た目にこだわりがないから、頭は日本男児のような坊主に刈りこんであるし、服装もシンプルだ。清潔感はあると思うけど、特に目立つような格好でもない。単におしゃれが下手なだけだ。
それでも女子たちは、そんな僕を「飾らない」と好意的に受け取めた。
恋愛経験も無いから、言われるがままに色んな子たちと付き合った。もちろん楽しかったが、本気で好きな訳では無かった。誰かと付き合っていても、すぐに別の子に告白される。そうすると、僕は来る者拒まず、あっさり乗り換える。それが相手を傷付けると気付かぬまま。
僕からアプローチした事もあった。好みの子には、とりあえず声をかける。大抵の子は簡単に好きになってくれた。でも、女の子が喜びそうな華やかな魔法を披露してみせ、それを褒めて貰えたとしても、なにか物足りない。僕は好かれすぎると冷めてしまうという勝手な所があるらしく、どの子ともあまり長くは続かなかった。
それでも最初は良かったが、次第に男からの反感を買った。あからさまに僕に嫌がらせをする者も現れた。特に酷かったのは、初めて魔法の力を見せた時に褒めてくれていた友人たちだった。
その時、分かった。成功する者を心の底から素直に認める事が出来る人は少ない。凄い凄いと称える気持ちも、その時は本心だったとしても、何かの拍子に崩れ去る。最後に残るのは、嫉妬からの憎悪だ。僕の魔法を見てあれだけ目を輝かせていた友人たちは、僕の物を隠したり、壊したりした後に「魔法で直してみろ」と笑うようになった。
確かに僕も悪かった。ただでさえ少ない女子をとっかえひっかえしている僕が、恨まれないはずがない。ただ、それはきっかけに過ぎなかった。こいつになら何をしてもいいと一度思ってしまったあの時の彼らに、罪悪感というものは無かっただろう。
僕は何かある度に、黙って受け入れた。少しは堪えた所を見せればいいものを、実際に魔法でなんとか出来てしまう所も、さらに彼らの怒りを煽った。ついでに今まで振ってきた女の子たちからも愛想を尽かされ始めた。彼女たちは得意とする陰口で、僕を精神的にも追い詰めようとした。元々1人でいるのも好きだからあまり気にしなかったけど、周囲の人からすればその態度がまた面白くないらしく、ますます敵を増やした。
そんな日々を送っていたものだから、小さな学校という狭い世界では当然、孤立していった。
***
ある日、僕はかつての友人らに囲まれて校舎裏に連れて行かれた。どうやら彼らはついに、僕に直接怒りをぶつける事にしたらしい。数人がかりで殴れば、何をされても動じないさすがの僕も屈服すると思ったのだろう。
彼らは僕の魔法を恐れなかった。理由は単純だ。僕が一度も攻撃魔法を見せた事が無かったからだ。僕自身も、知らなかった。力を持っていてもそれに気付かなければ、持っていないと同じ事だった。
だから、あっと思った時には遅かった。彼らのあまりのやり口に僕もカッとなってしまい、一度だけ杖を思い切り振ってしまった。見た事も無い光と爆発音と、煙が消えたと思ったら、遠くの茂みで血を流して倒れている彼らが見えた。幸い全員意識はあったものの、1人は嬉しそうに笑った。これでお前も終わりだと、すぐに先生を呼んだ。騒ぎを聞きつけて飛んできた先生は、僕が魔法の腕試しをしたいと言って自分たちを呼び出し、的にしたという彼らの言い分を、まるごと信じた。
僕は退学処分になったが、もうどうでも良かった。どのみち周りからは嫌われていたし、授業は簡単でつまらなく、将来の夢も無い。魔物の角やウロコは売れるらしいから、この力で適当にゴブリンでも狩った金で食っていこうかと本気で考えていたくらいだ。
だから別に辞めても構わなかったのだが、校長が僕の学力や魔法の才能を鑑み、プロピネス総合学校への転入を勧めてくれた。あそこなら魔法学も授業に取り入れているし、僕の才能を閉じ込めることも無いだろう、とのことだった。あのときの校長先生には、今でも感謝している。
こうして、僕は追い出されるように学校を後にした。
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