天才魔法使いは意地っ張りな努力家魔女に恋をする
10話 急な思いつき
「ちょっと、ハヤト君どこに行ってたの?」
「ごめんね」
包みはポケットに隠した。僕は何をやっているんだろう。渡すタイミングなんか無いのに。そもそも今は彼女とのデート中だぞ。
「もー。それより見てよ、これ。可愛い?」
アメリは、試着した洋服を見せてきた。青色のワンピースで、裾には白いレースがついている。
「うん、素敵だと思うよ」
僕が言うと、アメリアは顔を赤らめた。
「……えへへ、これにしようかな………」
しかし、そのまま黙って動かない。モジモジしている。
「…?」
ピンときた。買えという事か。分かったよと財布を出すと、彼女はパッと笑顔になった。
「ハヤト君は優しいね」
会計をしてアメリに渡すと、本当に嬉しそうな笑顔を見せた。
「今日幸せ過ぎる…!!私何も言ってないのに。ハヤト君って尽くしてくれるタイプなんだねっ」
「………喜んで貰えて良かった」
僕はなんとか微笑む事が出来た。
「色々、ありがとう。お礼に、私がクッキーを作るわ。あ、まさかハヤト君、お菓子作りも出来たりする?」
「いや、お菓子は作った事無いな」
それよりも、もう帰ってもいいかな。
「良かったぁ、じゃ、ハヤト君にご馳走出来るわね!」
「ああ、楽しみにしてるよ」
また手を繋いで歩き出した。彼女には不思議と、僕に物を言わせない圧がある。
クッキーの材料代も、当たり前のように僕が払った。そういえば最初のカフェも、会計前から「ごちそうさま!」と言われた。僕は彼女の屈託の無い笑顔に何も言えなかった。ゴブリン狩りである程度稼げているから金の問題ではないが、いい気はしない。
「材料は、OKね。あとは、作るだけなんだけど…私、作り方知らないのよね……」
「そうだったの?僕も分からないよ」
珍しく彼女から提案してくれたと思ったら…
「うーん…もう材料も買っちゃったし……あ!」
僕の気持ちをよそに、アメリはひらめいたように言った。
「そうだ。図書館になら、きっとレシピ本があると思うの。図書館に寄ってから帰りましょ!」
思わずどきりと心臓が動く。
「えっ……図書館かい?学校の?」
「ええ。嫌?」
「いや…………ではないけど………」
僕は動揺してしまった。図書館の窓際に座って勉強する、あの子の姿が浮かぶ。
「じゃあ、決まりね。早く行きたいわ、ハヤト君のホウキに乗せてくれるかしら」
アメリは笑顔で言った。
「待って。ゆっくり行きたいな。歩いて行こうよ」
僕は時計を見ながら、焦ったようにアメリの手を握った。もう日も落ちかけている。いたとしたら、まだギリギリ残っているかもしれない。2人でいる所を見られたくない。
いや、さすがに今日はいないか。クリスマスだ。彼女も今日という日を楽しんでいるはずだ。家族や友達とパーティーか、もしかすると、僕が知らないだけで恋人だっているかもしれない。
恋人?あの子に彼氏?一瞬考えただけなのに胸が痛む。なぜだ?確かにあの子の表情は見てて面白いし、一緒にいると楽しいけど、最初の印象がアレだったから、思ってたよりはいいなと思っただけのはずだ。それに僕だって今まさに彼女と過ごしているというのに。
僕はアメリと図書館への道を歩き出した。いて欲しくない。でも、いて欲しい。
動揺を隠すようにポケットに手を入れると、羽根ペンの入った箱に触れた。自分の気持ちが分からない。どうしてこれを買ったんだ。
あっという間に図書館へ着いてしまう。道中の記憶が全く無い。アメリとどんな話をして歩いたのか思い出せない。
緊張しながら、入口のスライドドアを滑らせる。何をしに来たんだっけ。僕は目的を完全に忘れていた。