完璧美人の私がうっかりスカートを穿き忘れた事がキッカケで恋に落ちた話
“別にはじめてって訳でもないのに”

 手を繋ぎ一緒に乗り込んだエレベーター。
 狭く密閉されたこの空間が、外を歩いていた時よりもより彼との変化した距離を強調させているように感じトクトクと鼓動が響く。

 僅かに触れる肩が熱くて、自身の頬までも熱を持った。


 無言がうるさいと感じるのは、きっと私の心音が駆け巡っているからで――


 ゆっくりと開くエレベーターの扉。
 彼に手を引かれる前に歩幅を早めて廊下へ歩き出したのは、私だって切望しているのだという精一杯の主張。

 きっと彼ならば汲み取ってくれるはずだから。


 水澄さんの足があるドアの前でピタリと止まり、鞄から革のキーケースを取り出した。

 “どんな部屋かしら”

 彼のことだから、部屋へ私を通す前に『少し散らかってるんですが』とか前置きしそう、なんて想像する。

 そんな前置きをしたくせに通された部屋は文句の付け所のないほど整理されてそうだ、なんてことが目に浮かぶようで私は軽く苦笑した。

“それとも案外散らかってたり?”

 契約というのは取ったら終わり、ではもちろんなく。
 むしろ契約後からが本番とも言える。
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