完璧美人の私がうっかりスカートを穿き忘れた事がキッカケで恋に落ちた話
 考えすぎと言われればそれまでだが、荷物と引き離されたらすぐには逃げ出せないし、自宅を履歴に残すのにも抵抗がある。
 しかも寝てていいとまできたもんだ。

“まさか起きたらラブホに……なんてこと、ないわよね?”

 ついそんな邪推をした私が車に乗り込むのを躊躇っていると、水澄さんがきょとんとした顔を向けて小首を傾げた。


「どうかしましたか? あっ、まさか熱が更に上がったんじゃ……」
「! だ、大丈夫だから!」

 そしてすぐにハッとした表情になった彼が私の方へ駆け寄ろうとしたのを見て慌てて止める。
 彼のその本当に心配したという純粋そうな顔を見てむくむくと私に罪悪感が芽生えた。

 その罪悪感からか、緊張していた気持ちをふぅっと小さな息とともに吐き出した私は、少し困ったような顔をしている彼へゆっくり首を左右に振る。

「でも」
「大丈夫、今車に乗ろうと思っていたの」

“それに万が一の時は、全身で暴れてやるわ”

 私たちが一緒にいることは盛岡部長も知っているのだ。
 先ほど芽生えた罪悪感も相まって、流石にこの状況で滅多なことにはならないだろうと考え直した私は車に乗り込む。
< 20 / 137 >

この作品をシェア

pagetop