完璧美人の私がうっかりスカートを穿き忘れた事がキッカケで恋に落ちた話
 そんな考えが頭を過り、思わず苦笑すると総務部の盛岡部長が少し怪訝そうな顔をした。

 
「すみません、お手間おかけし申し訳ありませんでした」
「いや、構わない。理香子も心配していたし、今後は倒れる前に休むようにしてくれ」
「はい」

 
 盛岡部長にペコリと頭を下げてから総務部を出た私は、ロビーに設置された紙コップ式の自販機に目を止める。

“コーヒー……”

 奢ると約束したコーヒー。
 出社時に声をかけようと思ったが他の出勤者に紛れて気付かなかったのかそれとも直行で得意先に向かったのか、水澄さんは見つからなかった。

「そもそもあの時声をかけてくれたのは私の顔が赤くなっていたからだし」

 それまで名前は知っていたが接点はなかった事を考えると、このままだとどこかで意図的に彼を捕まえなくては約束が果たせないだろう。
 
“このままは流石にないわね”

 あれだけ迷惑をかけ、疑いまでもをかけたのだ。
 それなのに彼は嫌な顔ひとつ見せなくて。

 はぁ、とため息を吐いた私は、その自販機に向かって足を進めたのだった。


“いないわね”
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