完璧美人の私がうっかりスカートを穿き忘れた事がキッカケで恋に落ちた話
『たまたま居合わせただけなので、お礼とかは本当に必要ないんですが』

 うーん、と電話の向こうで少し躊躇うような声が聞こえたので畳み掛けるように言葉を重ねる。
 このまま有耶無耶にされ、礼儀のなっていない女にはなりたくなかった。


「コーヒー、少し会社から離れるんですが美味しいお店を知ってます。そうか、どこかでテイクアウトしてお持ちしましょうか? 水澄さんももう帰られるんですよね?」

 電話をくれたということは彼も仕事が終わったのだろうと推測しそう言うと、何が面白かったのか突然電話口の向こうで笑い声が聞こえて思わず眉をひそめる。

“このやり取り、どこも面白い要素なんてなかったと思うんだけど”

 そんな私のムッとした気持ちが伝わったのか、『すみません』と口にした水澄さんが今から玄関ロビーへ向かうと言ってくれたので、その件についてはそれ以上聞かずに私も着替えた制服を鞄に入れてそこへ向かうことにした。


「お疲れ様です」
「久保さんもお疲れ様です」
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