完璧美人の私がうっかりスカートを穿き忘れた事がキッカケで恋に落ちた話
 そう言った水澄さんに向けられたのは、さっきまでのどこかからかったような笑いではなく、穏やかにふわりと綻ぶような笑顔だった。

“そんな風に思ってくれたんだ”

 さっき跳ねたのとは違う意味の鼓動が、さっきと同じ私の胸で小さく跳ねる。


「……ま、俺は賢くて可愛い犬ですし? 変な下心で誘った訳じゃないのでそこは安心してください」
「なっ!」

 そして水澄さんは意地悪さの混じった笑顔を浮かべる。ころころと変わる彼のその笑顔に私の心臓は落ち着かない。

 
「やっぱり貴方、根に持ってるんじゃないっ」
「さぁ? どうでしょうねぇ」
「それにちょっといい感じに言っても、脅してきたっていう事実は変わらないからね!?」
「心外だなぁ、完璧を作ってるくせにうっかりスカート穿きわす……」
「あー! あー!!」

 クックッと噛みしめるような笑いを溢しながら水澄さんがゆっくり歩き出したのを見て、慌てて彼の後を追う。
 その彼の歩くスピードが、思ったよりものんびりだったのでヒールの私でも無理なく追いついて。

“この歩く速度も、彼の気遣いなのかしら”

 改めてそのことに気付き関心した。

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