完璧美人の私がうっかりスカートを穿き忘れた事がキッカケで恋に落ちた話
 盛岡部長が軽々しくその噂を広めるとも思えなかったので、もしかしたらお姫様抱っこをしているところを見られていたのかもしれない。

 それとも先週のお出かけを目撃されたのだろうか。

「水澄さんって年下でしたよね。わぁ、ストライクゾーン広いんですねぇ~」

 あはは、とどこか嘲笑したような表情の同僚が話すだけ話して更衣室を出るのを見送った私は、バクバクと鳴る心臓に冷や汗を滲ませながら今度はしっかりとスカートを穿いた。


 
「まずいわね」

 同僚の後を追う形で自身も更衣室を後にする。
 嘘の恋人宣言をするくらいだし、デートを申し込んできたのだから彼女はいないんだと思うが……

“借りを返したあとはそのままフェードアウトするつもりだったのに”

 私だけなら、最悪いわれのない噂がひとつ増えたくらいで今更だと流せる。
 副社長は相手が勝手に粉をかけてきたのだから、悪い噂が流れても自業自得だろう。

 
 でも、水澄さんは。

“ただ、親切なだけ……なのよね”

 ベッドに飾られたカクレオンのマスコットを思い出しながらため息が漏れる。
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