完璧美人の私がうっかりスカートを穿き忘れた事がキッカケで恋に落ちた話
 お出迎えで立って接客しても、この目隠し部分のお陰で横から覗き込まれなければスカートを穿いていないことには気付かれないはずだ。

 だが、サボりに出た同僚がいつ戻ってくるかもわからない。
 どんなに前から隠れていても、隣に立たれれば確実に気付かれてしまうはず。

「今日に限ってはいっそこのままサボり続けて欲しいわね……」

 万一見つかり、写真でも撮られたらそれこそ一巻の終わりだろう。

 
“熱があるって自覚したからかしら”

 ぐるぐると回る思考は何一ついい解決策を導き出してはくれず、それどころか回る思考と一緒に目まで回ってきたように感じた私が、ハァとため息混じりに右手で目頭を押さえた時だった。


「あれ、具合悪い? 大丈夫ですか?」

 還暦間近の早川さんとは違う若い男性の声が頭上近くから降り慌てて顔を上げた。
 焦った私の目の前にいたのはアッシュ系の茶髪に少し子犬っぽくも見えるたれ目の青年。

“確か営業部の”
「水澄さん」
「おはようございます、久保さん」

 ぽつりと呟くように名前を呼ぶと、すかさず人懐っこそうな笑顔をむけられた。

“可愛いって人気があるのもわかるわね”
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