完璧美人の私がうっかりスカートを穿き忘れた事がキッカケで恋に落ちた話
 でも私なんか対象じゃないんだ、と。

 そんな事を気付かぬうちに考えていたのかも、なんて思いながら彼の手にそっと触れた。


 何故だか少し緊張してしまって、健全ぴゅあな学生の頃を思い出す。
 
 その気恥ずかしさを誤魔化すように、仕事の話や最近お気に入りの朝食の話、実家で飼っている亀の話など本当にとりとめのない話をしながら必死に口を動かしていると、道路の橋で突然水澄さんが足を止めて。


「帰さなくて、いいんですか?」


 聞かれた言葉の意味が一瞬わからずぽかんとしてしまう。

 そういえばここはどこだ、とハッとした私が慌てて辺りを見渡すとこのまま真っ直ぐ進めば駅への道がある交差点近くだった。

“そんなことにも気付かないくらい夢中で話してたのね”

 きっと緊張している私を気遣い立ち止まってくれたのだと気付いた私の心にふわりと温かいものが溢れたように感じて。


 私は繋いでいる手をぎゅっと強く握り直し、こくりと頷いたのだった。



 水澄さんの家は会社から近かったらしく、駅へと続くあの交差点を左に曲がりそのまま15分ほど歩いたマンションの4階だった。

 
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