しゃぼん玉と約束

クリスマス

〜湊月side〜
「俺と付き合ってください。」

あの時の約束を言われたあと、瑠木の言葉を聞いて涙が出そうになった。好きな人からの告白って想像以上に嬉しいんだって分かった。

今までどれくらい願っただろう。

松浦くんから瑠木は誰とも付き合ってないと聞いてから、どれだけ期待しただろう。

隣のクラスの子や先輩に呼び出されて告白されたと聞いた時、胸の奥が締め付けられた体験を何回しただろう。

月明かりに照らされた瑠木は、まるで夜の王子様。

そんな王子様から私は今、告白を受けている。迷うはずもない。私がこれまで望んだ関係になるには。

私の返事は、、、、

「はい!喜んで!」

私は笑顔を作ってそう伝えた。


あれから2週間が経って、今日はついにクリスマスパーティーの日だ。

私は仕事をできるだけ巻いて、開始時間の45分遅れから15分遅れで学校に着いた。

手にはマネージャーさんからクラスのみんなにと作ってくれたカップケーキが入った紙袋を持っている。

このカップケーキほんと美味しいんだよね。

そう思いながら玄関でシューズに履き替えて、教室に向かった。廊下にみんなの笑い合う声が響いていて、だんだん足取りが軽くなっていく。

楽しみだなあ。

教室のドアを開け、目の前の光景に息を呑む。壁には風船やキラキラしたリボンが飾られていて、黒板には"Merry Christmas"と書かれていた。

「湊月おつかれ!」

珠莉がそう言うと、

「一ノ瀬さん、早かったね。」
「撮影お疲れ様〜。」

とみんなが言ってくれた。

その中私と目が合った瑠木は、こっちだよと空いた席を指さして椅子を引いてくれた。「ありがとう。」と言って座ると、目の前のケーキがまだ切られていないことに気がついた。その途端、

パンッ、パパンッ

大きな破裂音が何回か鳴って、私はびっくりして目を瞑った。でもそれがクラッカーとわかると、ゆっくり目を開ける。

「一ノ瀬兄妹、誕生日おめでとー!!」

みんなが私と瑠木を囲んで言った。

急なことに、私はまたびっくりして目を丸くしていると、

「実はクリスマスパーティー兼一ノ瀬兄妹の誕生日会でもあったんだよね〜。」
「みんなで2人にバレないように準備してたんだけど、瑠木にはこの間バレちゃったからさ。せめて一ノ瀬さんだけでも驚かせてやろうって計画してたんだよ。」

と、真島くんと佐々木くんが言った。

そう、今日24日は瑠木の誕生日で、明日25日は私の誕生日なのだ。それを覚えていてくれてたらしい。

「そうだったんだ。全然気づかなかったよー。みんなありがとう!」

笑顔でそう言った私は、みんなに渡したい物があると言って、持っていた紙袋からカップケーキを一人一人に渡した。

みんなが嬉しそうな顔をしているのを見て、なんだかほっこりする。

「良かったな湊月。みんな喜んでくれてるみたいで。」

と隣で瑠木が言うと、私は笑顔で「うん!」と返した。

みんなの表情も嬉しいけど、隣に瑠木がいて今こうやって笑いあえている。こんな関係がずっと続けばいいなと思う。その時、

「一ノ瀬さん。」

と後ろから声がして振り返った。そこにはとんがり帽子をかぶった松浦くんが立っていた。

「誕生日おめでと一ノ瀬さん。」

そして、リボンをつけた手のひらサイズの箱を渡してきた。

「え?いいの?」
「うん。一ノ瀬さんいつも仕事頑張ってるし、何かしてあげたいなって思って。」

そんな、何かしてあげたいって思ってるのは私もだよ。

「ありがと松浦くん。」

私はプレゼントを大事に受け取ってそう言う。

すると隣から、「俺には?」という声が聞こえた。横を見ると、口をとんがらせてムスッとした瑠木がいた。何だか、猫みたいで可愛い、、

「もちろん瑠木にもプレゼントあるよ。」
と、松浦くんは私のより少し小さい箱を瑠木に渡した。渡されて少しびっくりしていたから、冗談で言ったつもりみたい。

私たちにプレゼントを渡した松浦くんは、笑顔で、

「2人ともお幸せにね。」

と言って他の男子のところに行ってしまった。

その後ろ姿を見て、不意に考える。

もし松浦くんがいなかったら、きっと私たちは今の関係になんてなれてないんだろうな。

松浦くんから本当のことを聞いてなかったら、ずっと瑠木とギクシャクしたままだったのだろうな。

って。

たぶん今も、私と瑠木を2人きりにしようとしてくれてる気もする。

そんな松浦くんに感謝しなきゃ。

そう思い、瑠木が切ってくれたケーキを食べながらクラスのみんなと最高の時間を過ごした。


校門前でみんなと別れて、私は瑠木と帰り道を歩いていた。

隣でポケットに手を入れて、白い息を出しながら、

「楽しかったな。」

と瑠木が言う。「そうだね。」と返事して、私はお店に飾られたイルミネーションやクリスマスツリーを見る。すると少し寂しくなってしまった。

「湊月がこの街にいるのも、あと少しなんだな。」

ぽつりと瑠木がこぼした言葉に、

「うん、そうだね。」

と言った。

実はあれから自分なりに答えを出したの。女優になるという夢を叶えるために、私は東京の芸能学校の編入試験を受けたんだ。手応えは割とあったし、芸能活動もしているからか、先週合格という結果が電話で伝えられた。早速1月から登校していく形だから、もうこの街にいるのも残り1週間くらいだ。

「ちょっと湊月、一緒に来て。」

そう手を引かれて連れていかれたのは、近くの公園だった。そこには赤や黄色、緑と光っている大きなイルミネーションが立っていた。

「わぁ綺麗!」

イルミネーションの周りの柵の前に来て見上げると、もっと綺麗に見えた。いや、瑠木と一緒にいるからそう見えるのかな。

毎年クリスマスはイベントの仕事が入っていることが多かったし、ゆっくり街を歩いたりしてなかったからか、噂で大きなイルミネーションがあると聞いていても見たことがなかったんだ。

辺りには私たちと同じようにカップルや子供連れの家族が楽しそうにおしゃべりをしている。

空を見ると、ふわふわの雪が降っていて、これこそまさにホワイトクリスマスだ。

「ねぇ湊月。」

隣でふと瑠木が言う。

「なに?」
「誕生日プレゼント何が良い?」
「えー迷うなぁ、、。っていうか今日は瑠木の誕生日でしょ。何か欲しいものある?ずっと欲しかったものとか。」

そうだよ、まだ私の誕生日じゃない。今日は瑠木の誕生日なんだから。

「え、俺?うーーん、そうだなぁ、、、、」

斜め上を見て考える瑠木の顔が、とてつもなくかっこよかった。

しばらく考えた後、こっちをじっと見てきた。

「な、なに?」

顔に何か付いてるのかなと思いながら、そう答えると、瑠木は「いや?なんでも。」と言った。

すると、瑠木の綺麗な顔が近づいてきて、唇にぬくもりを感じた。急なことにびっくりして固まってしまったけれど、静かにそれを感じた。そして、瑠木は唇を離すと、

「ずっと欲しかったものは、もう貰ったよ。」

と耳元で囁いた。

少し顔を赤らめた瑠木の顔を見て、身体に熱が広がっていくのが分かった。

2人手をつないで。

「湊月、メリークリスマス。」
「誕生日おめでと、瑠木。」

16歳のクリスマスの夜のこと、絶対忘れないよ。



クリスマスとキス。
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