しゃぼん玉と約束

元友だち

〜瑠木side〜
俺らのクラスに転校生が来た。
名前は花巻美杜。
俺と湊月の中学の頃の友だちだ。
今はもうそんな関係になんてなる気はない。
だって湊月を傷つけた人物だから。
そして湊月のトラウマを作った人物だから。

今日は部活がオフの日。

湊月と一緒に帰ろうかな、?
でも、高城たちと帰るかな、

俺は言うか迷ったけどもしかしたらと思いきって、

「湊月、今日一緒に帰れたりしない?」
と聞いてみたけど、湊月は、

「ごめん、瑠木。今日は放課後呼ばれてるんだ。」
と少し残念そうに言った。

「そっか、また帰ろ。」
俺はそう言って、帰る準備を進める。

だよな。こうなるよな。
湊月は昔からモテる。だから他の男子によく呼びだされては、告白を受けていた。
それが俺はずっと心配だ。
アイツの告白はOKするんじゃないか、変なことされるんじゃないのか、とかね。

中2まではこっそりついて行って、隠れて見ていた。けどさすがに、俺が1番気持ち悪いことしてるってわかって、ついて行くことはしなくなった。

でもやっぱり、心配だ。
何人か心当たりがあるやつはいる。
けど、そいつらはさっき部活に行っていた。

じゃあ、湊月を呼び出しているのは一体だ?
その疑問が浮かんだ時、後ろから、
「ねぇねぇ、一ノ瀬さん。」
と声が聞こえた。

あぁ、悠光だ。
もしかして、悠光が呼び出したんじゃ、、

「今日一緒に帰っていい?」
悠光のその言葉に俺は驚いた。

呼び出しは悠光じゃないのか?

「ごめんね松浦くん。ちょっと用事があって残らないといけないんだ。」
「そうなんだ。分かった、また今度ね。」

後ろでそういう会話が聞こえて、俺は本当に心配になった。
まじで誰なんだよ。

教室に人が少しずついなくなって、湊月、悠光、花巻、俺の4人が残った。

「じゃあ俺先に行くわ。」
と悠光は言うと、荷物を持って手を振ってきた。 悠光に続いて、俺も帰ると言って教室を出た。

教室に2人を残すのは危ないかなと思いつつも、大丈夫だろうと思う自分がいた。それがダメだったんだ。
そのせいで湊月は、、、

次の日学校に行くと、湊月の右手首に包帯がしてあった。まるであの時みたいに。

「湊月その怪我大丈夫なの?」
と高城が聞くも、

「うん大丈夫だよ。ちょっと転んじゃってね。」
と湊月は答える。

昨日の呼び出しの後に転んだのか?下校中とか?
それとも、、、まさかっ、

「その怪我じゃあ、来週の撮影出来なさそうだねー。
可愛そうに。」

こっちに寄ってきて花巻が言った。
やっぱりコイツが湊月の手首を、、

「ねえねえ瑠木くんっ!これから売店行くんだけど瑠木くんも一緒に行こ〜よぉ。ねっ?」

急に花巻が腕を組んできて、上目遣いしてきた。

なんだコイツ、きもちわるっ。
そう思って腕を振り払っても、花巻はまた腕を組もうとしてくる。

「わーおぉ!美杜ちゃん積極的だね〜。」

川本がコッチをニヤニヤしながら見てくる。

「やめろっ、」
「ねぇいいじゃーん。行こうよぉ。」

花巻ってこんなやつだったっけ。
そう頭によぎった時、

「行けばいいじゃん瑠木。」
と言われた。

「え、」
花巻の腕を振り払っていた俺にその言葉を掛けてきたのは、間違いなく湊月だった。

「せっかく美杜に誘われてるんだしさ。」

いつもと違う冷たい目で、湊月はそう言った。
俺は頭が真っ白になった。

なんでそんな目で見てくるんだよ、、
俺のこと嫌いになったのかな、

その後、花巻に連れられて売店に行ったなんて、そんな記憶は俺になかった。


その日の夜、俺はバイトから帰って部屋のベッドに転んでいた。

湊月は何であんなこと言ったんだろう。
俺、何かしたかな、、、。

何もない天井を見つめて、日常を振り返る。けど特に心当たりの出来事はなかった。

22時7分と表記されたスマホのホーム画面を見て、俺は身体を起こす。

もうすぐ湊月がロケから帰ってくる時間だ。
俺は今日のことを聞いてみようと思って、部屋を出た。

「お兄ちゃんどこ行くの!」
結生の声がリビングからして「ちょっとそこら辺に行くだけ。」と返事し、俺は家を出た。

まだかな。
家を出て5分たったけど、人が全く通ってこない。

大丈夫だよな?襲われたりとかしてないよな?

そう思っていたら、黒い車が湊月の家の前で止まった。そして、パーカーを着た湊月が降りてきた。

「おつかれ湊月。」

そう声をかけると、湊月はびくっと震えた。そして「おつかれ。」と驚くほど小さな声でそう言った。

湊月は俺の方を見向きもせずに、家に入ろうとする。

「なぁ湊月、湊月ってば。」

名前を呼んでも振り向いてくれない。
何かおかしい。
俺は玄関前まで来た湊月の腕を掴んだ。すると、

「…めて、。やめてよ!!」
と今まで聞いたことないような声とともに、腕を振り払われた。涙でぐしゃぐしゃになった顔がフードから見えた。

「放っておいてよ!何も知らないくせにっ、美杜と付き合ってるくせに!」
「ど、どうしたんだよ湊月。何があったんだよ。」
「もういい!瑠木なんか、、瑠木なんか、もう私に話しかけて来ないで!!」

そう言った湊月はドアを勢いよく閉めた。

俺は言葉を失った。
あんな湊月、今まで見たことなかった。
もうダメだ、俺、湊月に嫌われた?

俺はそう思いながら歯を食いしばった。
そしてそのまま、とぼとぼと家に向かった。


湊月と程遠い距離を感じたのは初めてだった。
もう今日で1ヶ月。
あれ以来、1度も言葉を交わしていない。

でも少し、ほんの少し、湊月の態度が変わった気がしている。今まで目すら合わせてくれなかった湊月が、今日、目を合わせてくれたんだ。

5限が始まる前に「話したいことがあるから一緒に帰れる?」と書いた小さな紙切れが机の上に置いてあった。

「それさっき一ノ瀬さんが置いてったよ。」
と悠光がそれを教えてくれて、湊月だとわかった。

俺は湊月の席を見つめて、ちゃんと話そうと思った。


学校を出て門を目指すと、もう湊月は待っていた。
俺は少し歩く速度を速める。

近づく俺に気がつくと、湊月はいじっていたスマホをポケットにしまった。

「お疲れ。」

そう言った俺に「、、おつかれ。」と湊月は言った。小さな声だったけど、俺にはちゃんと聞こえた。

「じゃあ行こっか。」

その言葉で俺たちは歩きだした。

「あのね瑠木。その、、」

少し沈黙が続いて、湊月は口を開いた。

「うん。ゆっくりで大丈夫だよ。」

湊月が俺に謝ろうとしていることは分かっていた。
悠光から聞いていたから。
ちょっと前に偶然、悠光と湊月が一緒に北門を出ていくのを見た。きっとその時からだったと思う。悠光が何か言ったのかもしれない。

「私、瑠木のこと、、、」

少し声を震わせながら、でも頑張って伝えようとする湊月の話を、俺は真剣に聞いた。


伝える勇気、伝わった思い。
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